メディアの寿命

ときどき耳にする。

例えば「iPod買って、今まで持ってた300枚のCDの曲を全部リッピングして、CDそのものは売っちゃったよ」
例えば「昔から録りためていたビデオの中身を全部DVD-Rに入れてビデオは捨てちゃった」
例えば「フィルムスキャナー買って、全部PCの中にデータ化してプリントもネガも捨てちゃった」

これらは、情報のデジタル化という行為です。
まあCDはもともとがデジタルデータですが、物理的な光る円盤そのものはアナログなので。

小説家であり、本の収集家、博物学者など肩書きは多いけれど、最近では「トリビアの泉」に出てるおじさんというとわかりやすい、荒俣宏さんはこうおっしゃっています。

「メディアの歴史とは退化の歴史である」
ここでいうメディアとはマスメディアのことではなく、記録媒体のことです。

現存する最古のメディアは、おそらく石版や洞窟に彫られた絵や文字です。
その次に皮やパピルスに書かれた文字。
グーテンベルクが発明した印刷術以降、紙に印刷された文字が束ねられたもの、本が主流になった。
今も本は世の中に溢れていますが、今の本は酸性紙などの問題で、寿命が昔の本より短いといわれています。

ここまで見てもわかるとおり、実は耐久年数は時代を経るほどにどんどん減ってきているわけです。
4000年前の石版を今読むことはできても、たかだか300年後に今出版されている多くの本はおそらく読むことができない。
歴史とは情報の集積なので、これは大きな問題です。
ギリシャやローマの科学的な叡智が途絶えて、中世のヨーロッパで、魔女狩りや天動説など、宗教的な世界観がまかり通っていたように、情報が受け継がれないと、人間は発展できない生き物だからです。

そこまで大きく考えなくても問題はいたるところにあります。

パソコンの中の情報を貯める場所、ハードディスクの寿命は数年です。
特に3年過ぎたらいつ壊れてもおかしくありません。
iPodなどのHDDプレーヤーも同様です。
CD-RやDVD-Rも誤解している人が多いですけれど、だいたい早ければ数年で寿命を迎えます。
耐久性を謳っているモデルは10年以上持つ、というものもありますが過信は禁物でしょう。
とにかく市販のパッケージのCDやDVDとは、情報の記録の仕方が違うので、耐久年数がまるっきり違います。
しっかり印刷された文字と自分で水性ペンで書いた文字、という風に考えるとイメージしやすいかと思います。
大切な音楽、ビデオ、写真。
デジタル化すると色褪せることもなく、音飛びもなく、ノイズもなく、永久に保存できるというのは幻想です。
全部消えてしまうくらいなら、多少色褪せてても元のままがよかった…と後悔しても後の祭り。

デジタルな仕事をされている人ほど、実はプライベートではデジタル化に慎重な場合が多いです。
デジタル化を決意した場合、ハードディスクが壊れた場合のために、バックアップ用の予備のハードディスクがまずないと不安。
CDもDVDもかさばらないのはいいけれど、3年に一度はデータを新しいメディアに移し替える。
その手間は相当なものです。

さらにデータを読み取る機械の規格が変わったら、その大事なデータにアクセスする事自体が難しくなってしまうという問題もあります。
かつてビデオがベータだったり、レーザーディスクを持っていた人はよくわかるかと思いますが。

某映画会社は、過去の映画のアーカイブを、ビデオ作品も含めて、全て未だにフィルムで管理しているといいます。
今どきビデオくらいデジタルでもいいんじゃないかと思いがちですが、やはり100年以上の歴史のあるフィルムの方が信頼性が高いということなんでしょう。

自分が生きている間くらいの耐久性のある普遍的なデジタル規格…そんなのがあったらいいんですが、当分は出てこないでしょう。

デジタル化はくれぐれも慎重に。

メディアの寿命」への1件のフィードバック

  1. Terry Nova

    I read your blog in a regular manner and just love it
    hope there will be more postings from you, keep on going
    greetz, terry

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