落ちこぼれが次の時代を担う

美大に1996年に入学し、2000年に卒業した。
日本のインターネット元年と言われた1995年から5年あまりして社会人になった。

これは私の周りの学生だけかもしれないし、むしろ私だけなのかもしれないが、その頃のグラフィックデザインの花形はまだ広告や紙媒体だった。
また音楽業界は花盛りで、グラフィックデザインを志す学生の中には「CDジャケットのデザインがしてみたい」という人も多かったように思う。私もライブハウスやクラブのフライヤーやら、インディーズバンドのCDジャケットのデザインやらしたりした。

在学中にIllustratorのバージョンは5.5から、7になり、8になった。
企業では既に20歳代、30歳代のスタッフがMacを使ってデザインするのが普通になっていたが、版下を出力してアナログ入稿するというプロセスが一般的だった。
カラス口と写植機を使うよりも効率的、という意味でのコンピューターを使ったデザイン。
プロセスが完全にデジタル化されるのが一般的になるのはここから数年を要する。
IT革命は出版業界を変えたけど、それは電算写植機オペレーターを駆逐して、DTPオペレーターを生み出しただけのように思えた。
電子書籍はたぶん存在はしていたんだろうけど、紙の書籍に置き換わるとはまだ誰も思ってはいなかった。

一方、WEBデザインは既に勃興していて、Dream Weaverも、Flashも存在したけど、私のいたゼミで、WEBデザインを志す人はいなかった。

当時の美大生でグラフィックデザインを勉強していて、WEBデザイナーになろう、と考えた人は、よほど先見の明があったか、やや落ちこぼれだった人ではないかと思う。
優秀な生徒は広告代理店や有名デザイン事務所を就職希望先に選んでいた。

今だってひょっとしたら広告代理店は就職希望者が多いのかもしれない。
大手は不沈空母のように見えるし、年収は一般的なデザイナーよりはるかに高いのだから、ある意味当然だ。
でもテレビというメディアがこの10年で輝きを失ったように、(従来の意味に於いての)広告もこの10年でずいぶんしょぼくれた。「広告は現代のアートなのだ」とのたまう人も10年前にはいたが、映画やアニメやゲームに当てはまりこそすれ、今広告をアートだと言う人などいないだろう。広告批評という雑誌が数年前に休刊したが、広告を批評する意味がもはやわからなくなってきている。

アニメもそうだ。私の世代だと、なにか既存のアニメ(ジブリだのガンダムだの)に成長期に影響を受けて業界に飛び込む人が多かったが、上の世代は「美大に落ちたからアニメ会社に入った」というような人が多かった。

ゲームもそうだ。現在生きている日本人で後世に名を残すに違いない一人、”TVゲームの父”任天堂の宮本茂は大学でプロダクトデザインを修めたそうだが、恐らく同期のトップクラスは自動車や家具のデザイナーになったのではないか。

今私は専門学校で講師をしているのだが、学生は規模の大きさにとらわれず面白そうなことにどんどん飛び込んでみたらいいと思う。
所詮未来のことなんて誰にもわからないけれど、今花盛りで輝いている業界が10年後も輝き続けている可能性は必ずしも高くない。