こんな本を待っていた。
アニメに限らず背景を描く教科書として文句なくお薦め。
出版社サイトより
数多くのアニメーションの背景を手がけたBambooのスタッフが、CGでリアルな空と雲を描くテクニックを紹介します。色の作り方や光のとらえ方などの基本テクニックから、季節や時間で異なる空を描き分ける応用テクニックまでわかりやすく解説します。南国の積乱雲、爽やかな朝焼け、ドラマチックな夕焼け、月明かりに照らされる雲、夏雲と田んぼ、秋雲、冬の曇天、飛行機から見た雲海、雲間から差し込む光、天の川、オーロラなどなど眺めているだけで楽しくなる「雲」と「空」が登場します!
でも表紙や帯のコピーの方が魅力を端的に示している気がする。
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の背景画や、『攻殻機動隊S.A.C』シリーズ、『東のエデン』、『009 RE:CYBORG』など。
CG背景美術のあのBambooが空と雲を描くテクニックを初公開!
現実より美しい空と雲は、アニメ作品の中にある!
【目次】
はじめに
GALLERY
もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら
東のエデン 東のエデン劇場版Ⅰ・Ⅱ
ギルティクラウンIntroduction 制作環境と基礎知識
デジタルで描くときの道具
画像サイズと解像度Chapter1 基本パーツの描き方
グラデーションを描く
立方体を描く
球体を描く
円柱を描く
光源を移動させてみよう
雲と空を描くChapter2 自然物の描き方
岩を描く
木を描く
木や川のある風景を描く
南国の青い海と積乱雲を描くChapter3 一日の時間による変化を描く
爽やかな朝焼け、横から差し込む朝日
ドラマチックな夕焼け、逆光と沈む夕日
夜の海、月明かりに照らされる雲、映り込む月光Chapter4 四季の移り変わりを描く
土手に咲く桜と菜の花
夏雲と田んぼ
秋雲とススキ
冬の曇天と雪山Chapter5 いろいろな種類の空を描く
飛行機から見た雲海と、沸き立つ積乱雲
雲間から差し込む光、照らされる水田
夜空を縦断して輝く天の川
幻想的なオーロラのカーテンChapter6 都市や街並みを描く
質感を描き分ける
古民家のある風景
横浜ランドマークタワーから見た景色Chapter7 アニメーションにおける背景の役割
登場人物の心情に合わせて背景を描き分ける
『君に届け』を例に
時間軸の変化に合わせて背景を描き分ける
『精霊の守り人』を例に
アニメの背景美術というのは、2013年現在、8割方1からデジタルで作成されているのだが、そのメイキングを解説した本はこれまで無かった。
いや、アニメはもとより、ゲームやその他コンテンツと呼ばれるもののデジタル背景の描き方を解説している本でお薦めできるものは無かった。
アナログなら無くはない。
小林七郎の『空気を描く美術』や、『男鹿和雄画集II』などはいい教材になると思う。
デジタルで背景を描く解説書は2〜3年ほど前からぽつぽつと発売されていた。
私は元アニメーションの背景美術で、専門学校で講師をしているので、自分や生徒の参考になればと、発売されれば読んでみたり買ってみたりしている。
中には一部使える部分があったりしたが、全体的には物足りなかった。
しかしこの本は文句なくお薦めだ。
既に業界の背景美術の人や生徒も含め薦めまくっている。
この本を読んでみると、或いは細かい解説が載っていないと感じて不満に思う人もいるかもしれない。
“本の通りに描いたら凄い背景を描けた” という結果を求めるなら、その通りだと思う。
例えば、使うブラシの種類とか、レイヤーの重ね方といった解説は控え目だ。
しかしそれがいい。
絵を描く上で気をつけるべき点、雲、空、空気、木など自然現象の解説、光源に対する明暗の付け方など、本質的な解説が多い。
だから、PhotoshopでもPainterでもSAIでもClip Studioでも通用するし、バージョンが変わったからといって内容が変わるわけでもない。
それならアナログ時代の書籍でもいいのでは、という疑問も湧くが、それは半分当たっていて、半分誤りだ。
アナログ時代の書籍は、パネルへの水張りやポスターカラーの説明、地塗りなど、アナログ特有の事柄に割く部分が多く、デジタルで役に立たない部分が多い。
また、「筆の腹を使って」「水を多めに含ませて」と描いてあった時、それを再現するにはどうしたらいいのかは、相当デジタルでの作業に慣れないと難しい。
「はじめに」にある言葉を引用する。
本書で紹介している技法は、Bambooという一背景スタジオのスタッフが描いている方法であり、描き方に正解はなく、数ある技法の1つであるということをご理解いただきたいと思います。
正解は無いが、現在この本より優れた方法の提案もまた無い。
もちろん個々の背景美術スタジオで積み上げたノウハウというのはあるのだが、アニメ業界というのはノウハウの体系化や継承が極端に苦手で、今後この本より優れた提案があるかは大いに怪しい。
しばらくは、この本が業界も含めた背景美術の事実上の教科書として使われることになるはずだ。