「おひとりさまの老後」という本が売れているらしい。
あることが不安で気になって本屋で立ち読みしてみたら、やっぱりその通りだったので、書いておきます。
そのあることというのは「おひとりさま」の意味。
「おひとりさま」という言葉、数年前から「負け犬」という言葉と一緒に流行って、定着した感があります。で、ごっちゃに使われている。
元はそれぞれ本のタイトルから来ていて、
- 「おひとりさま」著者:岩下久美子
- 「負け犬の遠吠え」著者:酒井順子
がそれに当たります。
世間的には「30代以上・未婚・子ナシ」くらいの意味合いなのかな?
いや、「おひとりさま」は未婚女性くらいの意味合い?
「おひとりさまの老後」では、この「おひとりさま」と「負け犬」という言葉がポンポン出てきて、入れ替え可能な言葉として扱われている感じ。
もちろん内容は独身女性の老後の話です。
でも結論から言えば「30代以上・未婚・子ナシ」というのは「負け犬」の定義であって、「おひとりさま」の定義ではありません。
書籍「おひとりさま」の帯にはこんな風に書いてあります。
おひとりさま [ohitorisama]
- 「個」確立ができている大人の女性。
- “自他共生”していくための、ひとつの知恵。
- 仕事も恋もサクセスするために身につけるべき生き方の哲学。
- individual
- 通常は、一人客に対する呼称。
<注>シングル(独身)主義・非婚提唱・孤立・自閉・利己主義は別義。
※太字原文ママ
さらに内容を読むと「おひとりさま」というのは、「女性が一人でバーやレストランや旅館やホテルに入る」ということについて、お店側と女性自身の意識向上を目指すという、一種のフェミニズム論だとわかります。お店の人や他のお客に対しては「ひとり=淋しい」という偏見を取り除く。女性自身に対し ては、“一人だから出掛けられない”という環境への依存から、一人の時間を大切にして、仕事や恋や育児に頑張れる女性に。
そしてなにより、著者の岩下さんご自身、既婚の方です。
つまり本来、既婚で子持ちの「おひとりさま」はいるし、「30代以上・未婚・子ナシ」だけど「おひとりさま」ではない人もいる、ということです。
皮肉にも今「おひとりさま」という言葉を使う人に限って「ひとり=淋しい」という文脈で自嘲気味だったりします。これはどうなんだろう……
「おひとりさまの老後」の著者、上野千鶴子さんは日本のフェミニズム運動の旗手で、ジェンダー論の権威、東大教授という方なので、当然「おひとりさま」の元の意味を知った上で、あえてミスリードしているはず。だけどタイトルにもしているのに、「おひとりさま」の定義に全く触れていないのはちょっと気になります。
「おひとりさま」の著者の岩下久美子さんは、私のよく行くバーの常連でした。残念ながら、「おひとりさま」発売の直前にお亡くなりになられ、直接お会いすることはなかったのですが、そのかすかな縁あって、ずっとこの言葉のことが気になっていたので書いた次第です。