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ディズニーで考える物語の意味

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僕は元ディズニー社員で、ディズニーのアニメーションを作っていたので、まあ内情というか、内幕というか、そういう事について、ある程度詳しいです。もちろんブログには書けないようなこともあるのですが、それはさておき。
今回は物語というのを個人の体験というレベルではなくて、社会学的な観点から考えてみたいと思います。

「ディズニー・シナジー」という言葉がアメリカにはあります。
シナジーというのは「相乗効果」というのがニュアンスとしては近いと思うんですが、僕の勝手な超訳なんで本当は違うかもしれません。
で、その意味はというと、

【1.物語とキャラクターを使って「アニメーション」(映像)を作る】
まずはここから。
物語もキャラクターも映像化する過程で生み出されていきます。
そしてキャラクターを取り囲む世界観はここで決まります。
お客さんは映像を観て、楽しさを得て、次の購買意欲が高まっていきます。
僕はディズニーという巨大メディアコングロマリットで、この部分を担当していたわけです。

【2.「テーマパーク」で、そのアニメーション、映画の追体験をできるアトラクションを作る】
お客さんはアニメーションや映画への愛着から、テーマパークのアトラクションを体験したいと考えます。
そして、アトラクションを体験する事で、さらに物語やキャラクターへの愛着が深まります。
それは次の購買意欲を引き出します。

【3.キャラクター商品を作る】
映像、アトラクションで、物語とキャラクターへの愛着を深めたお客さんは、ぬいぐるみをはじめとする、キャラクター商品を手元に置いておきたいと考えま す。また日常にキャラクター商品があることによって、さらに愛着が深まり、次の映像作品、アトラクションに対しても高い関心が寄せられるようになります。

【1または2へ戻る】

これがディズニー・シナジーです。
アメリカにおいて、エンタテイメント業界、ひいてはメディア業界の手本とされ(最近は違うようですが)、経済学の教科書にも載っているそうです。
日本でも、サンリオはこれを目指して、「日本のディズニー」を標榜していました。(これも今は違うのかな?)

このディズニー・シナジーの中で、物語というのは確かに機能していました。
つまり物語というのが、観る人に夢を与えるということはもちろん、経済活動の中に組み込まれていた。

一方で、東浩紀氏などが述べるように、日本のエンタテイメント業界は、70年代までの「大いなる物語」が機能していた時代、つまり物語を追体験する時代(ヤマト/キャンディキャンディ等)から、
80年代以降の物語よりも個々のキャラクターへの感情移入のみが優先される時代(北斗の拳/タッチ等)、
さらに90年代から現代に続く、「萌え」に代表されるキャラクターへの愛着が優先される時代にシフトしてきました。
この過程で、物語というのは次第に意味を失ってきた。

これはアニメなどの単体のメディア、しかも日本に限っての指摘ですが、僕はこれをディズニー・シナジーにも適用できるはずだと考えています。
つまり、
【1.物語とキャラクターを使って「アニメーション」(映像)を作る】
という項目自体の意味が失われてきた、ということです。

なぜこんなことを考えるようになったかというと、知り合いのひとりの女性の存在が挙げられます。

彼女は大のディズニーファンで、ディズニーランドの年間パスポートを持っており、さらに「くまのプーさん」グッズで家が埋め尽くされています。
ベビー用品はもちろん、食器、家具、寝具…マニアといっていいと思います。
ところが彼女は、アニメーションの「くまのプーさん」シリーズをほとんど観たことがないのです!
プーさん以外のディズニーのアニメ全般もあまり観たことがないらしく、「アラジン」と「美女と野獣」だけ観たことがあるらしい。

初めてこれを聞いたときはすごく驚きました。
じゃあなんでこんなにグッズを集めてるの?
「かわいいから」「好きだから」
じ…じゃあそれをきっかけにアニメも観てみようって思わないの?
「あんまり思わない」

つまり物語がなくても、感情移入できなくても、「キャラクターがかわいい」だけで、完結できる人がいるんですよね。
しかもそれは彼女だけじゃなく、どうやらかなり多くの人がそうらしい。
これを知ったのは、まだディズニーに在籍していた時だったので、極端に言えば、自分の存在理由が否定されたような気分になりました。

これは日本の局地的な現象で、世界的には物語はまだまだ有効である…かどうかは知りません。
私見では、海外の映画の作り方などを見ていると、今だ有効だということは、まあできるとは思います。
ただ、世界で放映されているアニメの60%が日本製である以上、無関係ではないはずです。